二億ゴールドを貯める。
私はそのように決意した。
マイタウンを買うためである。
決意した当時の私は、二億という数字について、いささか認識が甘かったように思う。二億とは、二万の一万倍である。いや、そんなことは知っている。知ってはいるが、知っていることと、実感できることは別問題なのである。
たとえば、目の前に二億ゴールドが積まれていたとする。私はその山を見上げ、きっと感動するだろう。もしかすると、その場で王宮に仕官する決意を固めるかもしれない。
しかし現実には、私の前にあるのは原始獣装備である。
私はランプを回している。

王宮は遠い。
一、まずは現実を確認する
夢を語るのは楽しい。
夢の実現に必要な金額を確認するのは、少し楽しくない。
現在の所持金は、7,634,956ゴールド。目標は200,000,000ゴールド。したがって、残りは192,365,044ゴールドである。
数字にすると、なかなかの迫力である。
七百六十万ゴールドという金額だけを見れば、始めたばかりのころよりは前進している。少なくとも、私はそう主張したい。だが、目標との差を並べてみると、前進という言葉が急に頼りなくなる。
遠くに山が見える。歩き始めた。たしかに一歩は進んだ。しかし山は、こちらの努力に感動して低くなったりはしないのである。
二億ゴールドとは、そういう数字だ。
計画そのものは、何ひとつ進んでいない。いや、所持金は増えているのだから、進んでいないというのは正確ではない。正確ではないが、気持ちとしては、まだ出発地点の看板を読んでいるあたりである。
二、ランプを回せば、いつか二億になるのか
現在、私が取り組んでいる金策はランプ錬金である。
原始獣装備を用意し、錬金を施し、バザーに出品する。説明すると、ずいぶん立派な仕事に聞こえる。少なくとも、ランプを回しているあいだの私は、世界の経済を支えているような気分になる。
もちろん、世界経済は私のことなど知らない。
問題は、この方法を続けていけば、本当に二億ゴールドに届くのか、ということである。
装備を買うにはお金がいる。錬金には素材がいる。できあがった装備が売れればお金が戻ってくる。ここまでは分かる。だが、売れた金額が、そのまま利益になるわけではない。仕入れに使った金額も、素材代も、忘れずに考えなければならない。
私は自分を褒めることにした。
こういうとき、自分で自分を褒められる人間は強い。なお、褒めても所持金は増えない。
つまり、今の私に必要なのは「なんとなく儲かっている気がする」という感覚だけではない。装備にいくら使い、いくらで売れ、どれだけ時間をかけたのか。そういう数字を記録して、ようやく、この金策が二億ゴールドへの道として現実的なのかを考えられるのである。
これは冒険なのだろうか。
私はもっとこう、広大な大地を駆け回り、強敵と戦い、仲間と歓声を上げるような日々を想像していた。ところが実際には、ランプを回して帳簿のことを考えている。
冒険者になったつもりが、いつの間にか帳簿をつける人間になっている。
人生とは、まことに油断ならない。
三、社畜には、時間という問題がある
金策について考えるとき、もうひとつ無視できないものがある。
時間である。
私には現実の仕事がある。家族との時間もある。これは、二億ゴールド計画の障害として片づけてよいものではない。むしろ、そこを大切にしたうえで、残された時間を使って夢に近づきたいのである。
そのためには、ただ長く遊べばよいというわけにもいかない。
一時間かけてどれだけ利益が出たのか。準備にどれほど時間を使ったのか。売れるまで待つ時間も含めて考えるべきなのか。気にし始めると、考えることはいくらでも出てくる。
そして私は、考えすぎてランプを回す手が止まりそうになる。
本末転倒である。
金策の効率を調べるために時間を使いすぎて、金策をする時間がなくなってしまったら、私はいったい何をしているのだろう。調査のための調査をしているのである。これはこれで、たいへん学術的な響きがある。
しかし、学術的な響きがあっても、ゴールドは増えない。
だから、今すぐ完璧な答えを出そうとするのはやめることにした。まずは実際に試し、数字を残す。分からないことは、分からないまま記録しておく。少しずつ材料を集めていけば、いつか判断できる日も来るだろう。
たぶん来る。来てほしい。
四、まずは八百万ゴールドを目指す
二億ゴールドへの道のりを考えると、どうしても気が遠くなる。
そこで、当面の目標を決めることにした。
まずは8,000,000ゴールドである。
現在の所持金は7,634,956ゴールド。あと365,044ゴールドで届く。

二億と比べれば、ずいぶん手が届きそうな数字に見える。いや、実際に届くかどうかは、これからの金策次第なのだが、少なくとも二億よりは近い。近い目標をひとつずつ越えていく。これは、なかなか健全な考え方ではないだろうか。
私はうなずいた。
自分で考え、自分で納得する。たいへん大切な能力である。できれば、納得した内容が現実にも通用してほしい。
今の私にも、帰る家はある。

しかし、夢というものは困った性質を持っている。ひとつ手に入れると、次の夢が生まれてしまうのである。
次に欲しいのは、マイタウンだ。
……まずは、そのための二億ゴールドを何とかしなければならない。
二億ゴールドへの道は、まだ遠い。
だが、私はまだ諦めていない。そもそも、マイタウンを買うと決めたのは私である。誰かに頼まれたわけでもなければ、国から命じられたわけでもない。自分で決めたのだから、自分で何とかするしかないのである。
実に明快な話だ。
問題は、何とかする方法がまだよく分かっていないことである。
……まあ、そのあたりは、これから何とかしようと思う。
――夢幻浪漫。夢みたいなことを、現実でやってみる。


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